いか》に、居間《ゐま》に隱《かく》して置いた石が何時《いつ》の間《ま》にか客間の床《とこ》に据《すゑ》てあつた。雲飛《うんぴ》は驚愕《びつくり》して文句《もんく》が出《で》ない。
 老叟《らうそう》は靜《しづ》かに石を撫《な》でゝ、『我家《うち》の石が久《ひさし》く行方《ゆきがた》知《しれ》ずに居たが先づ/\此處《こゝ》にあつたので安堵《あんど》しました、それでは戴《いたゞ》いて歸《かへ》ることに致《いた》しましよう。』
 雲飛《うんぴ》は驚《おどろ》いて『飛《と》んだことを言はるゝ、これは拙者《せつしや》永年《ながねん》祕藏《ひざう》して居るので、生命《いのち》にかけて大事《だいじ》にして居るのです』
 老叟《らうそう》は笑《わら》つて『さう言はるゝには何《なに》か證據《しようこ》でも有《ある》のかね、貴君《あなた》の物《もの》といふ歴《れき》とした證據《しやうこ》が有るなら承《うけたま》はり度《た》いものですなア』
 雲飛《うんぴ》は返事《へんじ》に困《こま》つて居ると老叟《らうそう》の曰く『拙者《せつしや》は故《ふるく》から此石とは馴染《なじみ》なので、この石の事なら詳細《くはし
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