》ちた跡《あと》を弔《とむら》ふべく橋上《けうじやう》に立《たつ》て下を見ると、河水《かすゐ》清徹《せいてつ》、例《れい》の石がちやんと目《め》の下《した》に横《よこた》はつて居たので其まゝ飛《と》び込《こ》み、石を懷《だい》て濡鼠《ぬれねずみ》のやうになつて逃《にぐ》るが如《ごと》く家《うち》に歸《かへ》つて來た。最早《もう》〆《しめ》たものと、今度は客間《きやくま》に石を置《お》かず、居間《ゐま》の床《とこ》に安置《あんち》して何人にも祕《かく》して、只だ獨《ひと》り樂《たのし》んで居た。
 すると一日《あるひ》一人《ひとり》の老叟《らうそう》が何所《どこ》からともなく訪《たづ》ねて來て祕藏《ひざう》の石を見せて呉《く》れろといふ、イヤその石は最早《もう》他人《たにん》に奪《と》られて了《しま》つて久《ひさ》しい以前から無いと謝絶《ことわ》つた。老叟《らうそう》は笑《わら》つて客間《きやくま》にちやんと据《す》えてあるではないかといふので、それでは客間《きやくま》に來《き》て御覽《ごらん》なさい決《けつ》して有りはしないからと案内《あんない》して内に入《はひ》つて見ると、こは如何《
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