ぼし》ありて、相隔つる遠けれど恋路《こいじ》は千万里も一里とて、このふたりいつしか深き愛の夢に入り、夜々の楽しき時を地に下りて享《う》け、あるいは高峰《たかみね》の岩|角《かど》に、あるいは大海原《おおうなばら》の波の上に、あるいは細渓川《ほそたにかわ》の流れの潯《ほとり》に、つきぬ睦語《むつごと》かたり明かし、東雲《しののめ》の空に驚きては天に帰りぬ。
 女星《めぼし》は早くも詩人が庭より立ち上る煙を見つけ、今宵《こよい》はことのほか寒く、天の河《かわ》にも霜降りたれば、かの煙たつ庭に下《お》りて、たき火かきたてて語りてんというに、男星ほほえみつ、相抱《あいいだ》きて煙たどりて音もなく庭に下《くだ》りぬ。女星の額の玉は紅《くれない》の光を射、男星のは水色の光を放てり。天津乙女《あまつおとめ》は恋の香《か》に酔いて力なく男星の肩に依《よ》れり。かくて二人《ふたり》は一山《ひとやま》の落ち葉燃え尽くるまで、つきぬ心を語りて黎明《あけがた》近くなりて西の空遠く帰りぬ。その次の夜もまた詩人は積みし落ち葉の一つを燃《や》かしむれば、男星女星もまた空より下《くだ》りて昨夜のごとく語りき。かくて土
前へ 次へ
全7ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
国木田 独歩 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング