国木田独歩

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)程《ほど》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)血|温《あたた》かく

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#天から1字下げ]『いざさらば雪を戴《いただ》く高峰《たかね》』
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 都に程《ほど》近き田舎《いなか》に年わかき詩人住みけり。家は小高き丘の麓《ふもと》にありて、その庭は家にふさわしからず広く清き流れ丘の木立《こだ》ちより走り出《い》でてこれを貫き過ぐ。木々は野生《のば》えのままに育ち、春は梅桜乱れ咲き、夏は緑陰深く繁《しげ》りて小川の水も暗く、秋は紅葉《もみじ》の錦《にしき》みごとなり。秋やや老いて凩《こがらし》鳴りそむれば物さびしさ限りなく、冬に入りては木の葉落ち尽くして庭の面《おも》のみ見すかさるる、中にも松杉の類《たぐい》のみは緑に誇る。詩人は朝夕にこの庭を楽しみて暮らしき。
 ある年の冬の初め、この庭の主人《あるじ》は一人《ひとり》の老僕と、朝な朝な箒《ははき》執りて落ち葉はき集め、これを流れ岸の七個所に積み、積みたるままに二十日あまり経《た》
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