ゃんの嫁にしたいと思っているらしい、幸ちゃんはそれがいやでたまらない、それを継母《おふくろ》が感づいてつらく当たるらしい、だから幸ちゃんの身になって見るとたまらないサ。』
『そうなのよ、わたしもその事はちょっと聞いてよ、そうなのよ、だってあんまりそれは無理だわ……』まだ何か言いそうな時、突然橋の上に通り掛かった男、お梅の顔をのぞき込んで
『オヤ梅ちゃん、今晩は、』と意味ありげに声を掛けて行き過ぎた。橋を渡ったと思うとちょっと振り向いて、
『忘れていた、幸ちゃんによろしく。』
『知らないわ、お菊さんが待ってるよ。』
『ハハハハありがとう。』いううち姿が見えなくなった。
『お菊さんて踏切の八百屋《やおや》の娘だろうか。』時田は訊《たず》ねた。お梅はうなずいたぎり黙っていた。
※[#始め二重括弧、1−2−54]二※[#終わり二重括弧、1−2−55]
この日は近ごろ珍しいいい天気であったが、次の日は梅雨《つゆ》前のこととて、朝から空模様怪しく、午後はじめじめ降りだした。普通の人ならせっかくの日曜をめちゃめちゃにしてしまったと不平を並べるところだが、時田先生、全く無頓着《むと
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