んじゃく》である。机の前に端座して生徒の清書を点検したり、作文を観《み》たり、出席簿を調べたり、倦《くた》ぶれた時はごろりとそこに寝ころんで天井をながめたりしている。
午後二時、この降るのに訪《たず》ねて来て、中二階の三段目から『時田!』と首を出したのは江藤《えとう》という画家《えかき》である、時田よりは四つ五つ年下の、これもどこか変物《へんぶつ》らしい顔つき、語調《ものいい》と体度《みのこなし》とが時田よりも快活らしいばかり、共に青山御家人《あおやまごけにん》の息子《むすこ》で小供の時から親の代からの朋輩《ほうばい》同士である。
時田は朱筆《しゅふで》を投げやって仰向けになりながら、
『君|先《せん》だって頼んで置いたのはできたかね。』
江藤は火鉢《ひばち》のそばに座《すわ》って勝手に茶を飲み、とぼけた顔をして、
『なんだッたかしら。』
『そら手本サ。』
『すっかり忘れていた、失敬失敬、それよりか君に見せたい物があるのだ、』と風呂敷《ふろしき》に包んでその下をまた新聞紙で包んである、画板《がはん》を取り出して、時田に渡した。時田は黙って見ていたが、
『どこか見たような所だね、う
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