まくできている。』
『そら、あの森のところサ御料地の、あそこから向こうの畑と林とを見たところサ。』
『なるほどそうだ、』といいながら時田は壁に下げてある小さな水彩画と見比べている。
『無論この方がまずいサ。ところがこの絵にはおもしろい話があるからそれで持って来たがこれからまたこれを持って行くところがあるのだ。』
時田は起ち上がって火鉢のそばへ来て、『ふうン』とはなはだ気のない返事をして聞いている、これはこの人の癖だから対手《あいて》はなんとも感じない。
『昨日《きのう》はあのいい天気だからいつものように出かけて例の森、僕はまだあそこは画《か》いたことがないからどうせろくなものはできまいが、一ツ試みて見ようと、いつもの細い径《みち》を例のごとく空想にふけりながら歩いた。実は――もう白状してもいいから言うが――実は僕近ごろ自分で自分を疑い初めて、果たしておれに美術家たるの天才があるのだろうか、果たしておれは一個の画家として成功するだろうかなんてしきりと自脈を取っていたのサ。断然この希望をなげうってしまうかとも思ったがその時思い当たッたのは君の事だ。君がこうやッて村立尋常小学校の校長それも
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