五の、小づくりな色の浅ぐろい、目元の優しい男。
『オヤ幸ちゃんが! 今お前さんのうわさをしていたのよ。』実はお神さん少し驚いてまごついたのである。
『先生今日は。』
『この二、三日見えないようであったね。』
『相変わらず忙しいもんですから。』
『マアお上がんなさいな、今日《こんにち》はどちらへ。』お神さんは幸吉《こうきち》の衣装《なり》に目をつけて言った。
『神田《かんだ》の叔父《おじ》の処へちょっと行って来ました、先生今晩お宅でしょうか。』幸吉の言葉は何となく沈んでいる。
『在宅《い》るとも、何《なん》か用だろうか。』
『ナニ別に、ただ少しばかし……』
『今夜|宅《うち》で浪花節《なにわぶし》をやらすはずだから幸ちゃんもおいでなさいな、そらいつかの梅竜《ばいりゅう》』お神さんは卒然言葉をはさんだ。
『そうですか、来ましょう、それじゃあまた晩に』と言って幸吉は帰ってしまった。
『幸ちゃん今日《きょう》はどうかしているよ』とお神さんは言ったが、先生別に返事をしないで立て膝《ひざ》をしながらお神さんの手元をながめていた。お神さんは時田のシャツの破綻《ほころび》を繕っている。
 夜食が済むと
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