県の移民団体が居る処で、道庁の官吏が二人出張して居る、其処へ行くのですがね、兎も角も空知太まで行つて聞いて見る積りで居るのです。」
「さうですか、それでは空知太にお出になつたら三浦屋といふ旅人宿《やどや》へ上つて御覧なさい、其処の主人《あるじ》がさういふことに明《あかる》う御座いますから聞て御覧なつたら可《よ》うがす、どうも未だ道路が開けないので一寸《ちよつと》其処までの処でも大変大廻りを為《し》なければならんやうなことが有つて慣れないものには困ることが多うがすテ。」
それより彼は開墾の困難なことや、土地に由つて困難の非常に相違することや、交通不便の為めに折角の収穫も容易に市場に持出すことが出来ぬことや、小作人を使ふ方法などに就いて色々と話し出した、其等の事は余も札幌の諸友から聞いては居たが、彼の語るがまゝに受けて唯だ其好意を謝するのみであつた。
間もなく汽車は蕭条《せうでう》たる一駅に着いて運転を止めたので余も下りると此列車より出た客は総体で二十人位に過ぎざるを見た、汽車は此処より引返すのである。
たゞ見る此一小駅は森林に囲まれて居る一の孤島である。停車場に附属する処の二三の家
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