空知川の岸辺
國木田独歩

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)札幌《さつぽろ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)人口|稠密《ちうみつ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)くつろぎ[#「くつろぎ」に傍点]

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)飛び/\
−−

       一

 余が札幌《さつぽろ》に滞在したのは五日間である、僅に五日間ではあるが余は此間に北海道を愛するの情を幾倍したのである。
 我国本土の中《うち》でも中国の如き、人口|稠密《ちうみつ》の地に成長して山をも野をも人間の力で平《たひら》げ尽したる光景を見慣れたる余にありては、東北の原野すら既に我自然に帰依《きえ》したるの情を動かしたるに、北海道を見るに及びて、如何《いか》で心躍らざらん、札幌は北海道の東京でありながら、満目の光景は殆ど余を魔し去つたのである。
 札幌を出発して単身|空知川《そらちがは》の沿岸に向つたのは、九月二十五日の朝で、東京ならば猶ほ残暑の候でありながら、余が此時の衣装《ふくさう》は冬着の
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