の外に二人あるのみ。原始時代そのまゝで幾千年人の足跡をとゞめざる大森林を穿《うが》つて列車は一直線に走るのである。灰色の霧の一団又一団、忽《たちま》ち現はれ忽ち消え、或は命あるものの如く黙々として浮動して居る。
「何処《どちら》までお出でゝすか。」と突然一人の男が余に声をかけた。年輩四十|幾干《いくつ》、骨格の逞《たくま》しい、頭髪の長生《のび》た、四角な顔、鋭い眼、大なる鼻、一見一癖あるべき人物で、其風俗は官吏に非ず職人にあらず、百姓にあらず、商人にあらず、実に北海道にして始めて見るべき種類の者らしい、則《すなは》ち何れの未開地にも必ず先づ最も跋扈《ばつこ》する山師《やまし》らしい。
「空知太《そらちぶと》まで行く積りです。」
「道庁の御用で?」彼は余を北海道庁の小役人と見たのである。
「イヤ僕は土地を撰定に出掛けるのです。」
「ハハア。空知太は何処等を御撰定か知らんが、最早《もう》目星《めぼしい》ところは無いやうですよ。」
「如何《どう》でしやう空知太から空知川の沿岸に出られるでしやうか。」
「それは出られましやうとも、然し空知川の沿岸の何処等ですか其が判然しないと……」
「和歌山
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