そして一青年は彼等の仲間に加はらずたゞ一人其孤独を守つて、独り其空想に沈んで居るのである。彼は如何にして社会に住むべきかといふことは全然其思考の問題としたことがない、彼はたゞ何時《いつ》も何時も如何にして此天地間に此生を托すべきかといふことをのみ思ひ悩んで居た。であるから彼には同車の人々を見ること殆《ほとん》ど他界の者を見るが如く、彼と人々との間には越ゆ可からざる深谷の横はることを感ぜざるを得なかつたので、今しも汽車が同じ列車に人々及び彼を乗せて石狩の野を突過してゆくことは、恰度《ちやうど》彼の一生のそれと同じやうに思はれたのである。あゝ孤独よ! 彼は自ら求めて社会の外を歩みながらも、中心《ちゆうしん》実に孤独の感に堪えなかつた。
 若し夫《そ》れ天高く澄みて秋晴《しうせい》拭ふが如き日であつたならば余が鬱屈も大にくつろぎ[#「くつろぎ」に傍点]を得たらうけれど、雲は益々低く垂れ林は霧に包まれ何処《どこ》を見ても、光一閃だもないので余は殆ど堪ゆべからざる憂愁に沈んだのである。
 汽車の歌志内《うたしない》の炭山に分るゝ某《なにがし》停車場に着くや、車中の大半は其処で乗換へたので残るは余
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