満足しなかったのだ……先ず冬になると……」
「ちょッとお話の途中ですが、貴様《あなた》はその『冬』という音《おん》にかぶれやアしませんでしたか?」と岡本は訊《たず》ねた。
上村は驚ろいた顔色をして
「貴様はどうしてそれを御存知です、これは面白い! さすが貴様は馬鈴薯党だ! 冬と聞いては全く堪《たま》りませんでしたよ、何だかその冬|則《すなわ》ち自由というような気がしましてねエ! それに僕は例の熱心なるアーメンでしょうクリスマス万歳の仲間でしょう、クリスマスと来るとどうしても雪がイヤという程降って、軒から棒のような氷柱《つらら》が下っていないと嘘《うそ》のようでしてねエ。だから僕は北海道の冬というよりか冬則ち北海道という感が有ったのです。北海道の話を聴《きい》ても『冬になると……』とこういわれると、身体《からだ》がこうぶるぶるッとなったものです。それで例の想像にもです、冬になると雪が全然《すっかり》家を埋めて了《しま》う、そして夜は窓硝子《まどガラス》から赤い火影《ほかげ》がチラチラと洩《も》れる、折り折り風がゴーッと吹いて来て林の梢《こずえ》から雪がばたばたと墜《お》ちる、牛部屋でホ
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