牛肉と馬鈴薯
国木田独歩

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)倶楽部《クラブ》

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)明治|倶楽部《クラブ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、底本のページと行数)
(例)こっぷ[#「こっぷ」に傍点]
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 明治|倶楽部《クラブ》とて芝区桜田本郷町のお堀辺《ほりばた》に西洋|作《づくり》の余り立派ではないが、それでも可なりの建物があった、建物は今でもある、しかし持主が代って、今では明治倶楽部その者はなくなって了《しま》った。
 この倶楽部が未《ま》だ繁盛していた頃のことである、或《ある》年の冬の夜、珍らしくも二階の食堂に燈火《あかり》が点《つ》いていて、時々《おりおり》高く笑う声が外面《そと》に漏れていた。元来《いったい》この倶楽部は夜分人の集っていることは少ないので、ストーブの煙は平常《いつ》も昼間ばかり立ちのぼっているのである。
 然《しか》るに八時は先刻《さっき》打っても人々は未だなかなか散じそうな様子も見えない。人力車《くるま》が六台玄関の横に並んでいた
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