の天地に投じようと思いましたね」と言った時、岡本は凝然《じっ》と上村の顔を見た。
「そしてやたらに北海道の話を聞いて歩いたもんだ。伝道師の中《うち》に北海道へ往《い》って来たという者があると直ぐ話を聴きに出掛けましたよ。ところが又先方は甘《うま》いことを話して聞かすんです。やれ自然《ネーチュール》がどうだの、石狩川《いしかりがわ》は洋々とした流れだの、見渡すかぎり森又た森だの、堪ったもんじゃアない! 僕は全然《すっかり》まいッちまいました。そこで僕は色々と聞きあつめたことを総合して如此《こんな》ふうな想像を描いていたもんだ。……先ず僕が自己の額に汗して森を開き林を倒し、そしてこれに小豆《あずき》を撒《ま》く、……」
「その百姓が見たかったねエハッハッハッハッハッハッ」と竹内は笑いだした。
「イヤ実地|行《や》ったのサ、まア待ち給え、追い追い其処《そこ》へ行くから……、その内にだんだんと田園が出来て来る、重《おも》に馬鈴薯《じゃがいも》を作る、馬鈴薯さえ有りゃア喰うに困らん……」
「ソラ馬鈴薯が出た!」と松木は又た口を入れた。
「其処で田園の中央《まんなか》に家がある、構造は極《きわ》め
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