《た》べられませんものを!」と言った上村の顔は兎《うさぎ》のようであった。
「ハハハハビフテキじゃアあるまいし!」と竹内は大口を開けて笑った。
「否《いや》ビフテキです、実際はビフテキです、スチューです」
「オムレツかね!」と今まで黙って半分眠りかけていた、真紅《まっか》な顔をしている松木、坐中で一番年の若そうな紳士が真面目《まじめ》で言った。
「ハッハッハッハッ」と一坐が噴飯《ふき》だした。
「イヤ笑いごとじゃアないよ」と上村は少し躍起《やっき》になって、
「例えてみればそんなものなんで、理想に従がえば芋《いも》ばかし喰《く》っていなきゃアならない。ことによると馬鈴薯《いも》も喰えないことになる。諸君は牛肉と馬鈴薯《いも》とどっちが可《い》い?」
「牛肉が可いねエ!」と松木は又た眠むそうな声で真面目に言った。
「然しビフテキに馬鈴薯《いも》は附属物《つきもの》だよ」と頬髭《ほおひげ》の紳士が得意らしく言った。
「そうですとも! 理想は則《すなわ》ち実際の附属物《つきもの》なんだ! 馬鈴薯《いも》も全《まる》きり無いと困る、しかし馬鈴薯ばかりじゃア全く閉口する!」
と言って、上村はや
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