せがた》の紳士が促した。
「イヤ岡本君が見えたから急に行《や》りにくくなったハハハハ」と炭鉱会社の紳士は少し羞《は》にかんだような笑方をした。
「何ですか?」
岡本は竹内に問うた。
「イヤ至極面白いんだ、何かの話の具合で我々の人生観を話すことになってね、まア聴《き》いて居給え名論卓説、滾々《こんこん》として尽きずだから」
「ナニ最早《もう》大概吐き尽したんですよ、貴様《あなた》は我々俗物党と違がって真物《ほんもの》なんだから、幸《さいわい》貴様《あなた》のを聞きましょう、ね諸君!」
と上村は逃げかけた。
「いけないいけない、先《ま》ず君の説を終《お》え給え!」
「是非承わりたいものです」と岡本はウイスキーを一杯、下にも置かないで飲み干した。
「僕のは岡本|君《さん》の説とは恐らく正反対だろうと思うんでね、要之《つまり》、理想と実際は一致しない、到底一致しない……」
「ヒヤヒヤ」と井山が調子を取った。
「果して一致しないとならば、理想に従うよりも実際に服するのが僕の理想だというのです」
「ただそれだけですか」と岡本は第二の杯を手にして唸《うな》るように言った。
「だってねエ、理想は喰
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