上《おどりあが》らんばかりに喜こんだ。
「どちらかと言えば丸顔の色のくっきり白い、肩つきの按排《あんばい》は西洋婦人のように肉附が佳《よ》くってしかもなだらかで、眼は少し眠むいような風の、パチリとはしないが物思に沈んでるという気味があるこの眼に愛嬌《あいきょう》を含めて凝然《じっ》と睇視《みつめ》られるなら大概の鉄腸漢も軟化しますなア。ところで僕は容易にやられて了ったのです。最初その女を見た時は別にそうも思っていなかったが、一度が二度、三度目位から変に引つけられるような気がして、妙にその女のことが気になって来ました。それでも僕は未だ恋《ラブ》したとは思いませんでしたねえ。
「或日僕がその女の家へ行きますと、両親は不在で唯《た》だ女中とその少女《むすめ》と妹《いもと》の十二になるのと三人ぎりでした。すると少女《むすめ》は身体《からだ》の具合が少し悪いと言って鬱《ふさ》いで、奥の間に独《ひとり》、つくねんと座っていましたが、低い声で唱歌をやっているのを僕は縁辺《えんがわ》に腰をかけたまま聴《き》いていました。
『お栄さん僕はそんな声を聴かされると何だか哀れっぽくなって堪《たま》りません』と
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