、君等は牛肉党なんだ、牛肉主義なんだ、僕のは牛肉が最初から嗜きなんだ、主義でもヘチマ[#「ヘチマ」に傍点]でもない!」
「大に賛成ですなア」と静《しずか》に沈重《おちつ》いた声で言った者がある。
「賛成でしょう!」と近藤はにやり笑って岡本の顔を見た。
「至極賛成ですなア、主義でないと言うことは至極賛成ですなア、世の中の主義って言う奴ほど愚なものはない」と岡本はその冴《さ》え冴《ざ》えした眼光を座上に放った。
「その説を承たまわろう、是非願いたい!」と近藤はその四角な腮《あご》を突き出した。
「君は何方《どちら》なんです、牛と薯《いも》、エ、薯でしょう?」と上村は知った顔に岡本の説を誘《いざの》うた。
「僕も矢張、牛肉党に非ず、馬鈴薯党にあらずですなア、然し近藤君のように牛肉が嗜《す》きとも決っていないんです。勿論《もちろん》例の主義という手製料理は大嫌《だいきらい》ですが、さりとて肉とか薯《いも》とかいう嗜好《しこう》にも従うことが出来ません」
「それじゃア何だろう?」と井山がその尤《もっと》もらしいしょぼしょぼ眼《まなこ》をぱちつかした。
「何でもないんです、比喩《ひゆ》は廃《よ》し
前へ
次へ
全40ページ中17ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
国木田 独歩 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング