。
「そこで僕はつくづく考えた、なるほど梶原の奴の言った通りだ、馬鹿げきっている、止そうッというんで止しちまったが、あれであの冬を過ごしたら僕は死《しん》でいたね」
「其処でどういうんです、貴様の目下《もっか》のお説は?」と岡本は嘲《あざけ》るような、真面目な風で言った。
「だから馬鈴薯には懲々《こりごり》しましたというんです。何でも今は実際主義で、金が取れて美味《うま》いものが喰えて、こうやって諸君と煖炉《ストーブ》にあたって酒を飲んで、勝手な熱を吹き合う、腹が減《すい》たら牛肉を食う……」
「ヒヤヒヤ僕も同説だ、忠君愛国だってなんだって牛肉と両立しないことはない、それが両立しないというなら両立さすことが出来ないんだ、其奴《そいつ》が馬鹿なんだ」と綿貫は大に敦圉《いきま》いた。
「僕は違うねエ!」と近藤は叫んだ、そして煖炉を後に椅子へ馬乗になった。凄《すご》い光を帯びた眼で坐中を見廻しながら
「僕は馬鈴薯党でもない、牛肉党でもない! 上村君なんかは最初、馬鈴薯党で後に牛肉党に変節したのだ、即ち薄志弱行だ、要するに諸君は詩人だ、詩人の堕落したのだ、だから無暗《むやみ》と鼻をぴくぴくさし
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