をして、血のたれるビフテキを二口に喰って了うんだ。ところが先生僕と比較すると初《はじめ》から利口であったねエ、二月ばかりも辛棒していたろうか、或《ある》日こんな馬鹿気たことは断然|止《よそ》うという動議を提出した、その議論は何も自からこんな思をして隠者になる必要はない自然と戦うよりか寧《むし》ろ世間と格闘しようじゃアないか、馬鈴薯よりか牛肉の方が滋養分が多いというんだ。僕はその時|大《おおい》に反対した、君|止《よ》すなら止せ、僕は一人でもやると力味《りき》んだ。すると先生やるなら勝手にやり給え、君もも少しすると悟るだろう、要するに理想は空想だ、痴人の夢だ、なんて捨台辞《すてぜりふ》を吐いて直ぐ去《い》って了った。取残された僕は力味《りき》んではみたものの内内《ないない》心細かった、それでも小作人の一人二人を相手にその後、三月ばかり辛棒したねエ。豪《えら》いだろう!」
「馬鹿なんサ!」と近藤が叱《しか》るように言った。
「馬鹿? 馬鹿たア酷だ! 今から見れば大馬鹿サ、然しその時は全く豪かったよ」
「矢張《やっぱり》馬鹿サ、初から君なんかの柄にないんだ、北海道で馬鈴薯ばかり食《くお》うな
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