たよ真実《ほんと》に!」
「一寸《ちょっ》と君、一寸と『馬鹿野郎!』というような心持というのが僕には了解が出来ないが……そのどういうんだね?」と権利義務の綿貫が真面目で訊ねた。
「唯《た》だ東京の奴等《やつら》を言ったのサ、名利《みょうり》に汲々《きゅうきゅう》としているその醜態《ざま》は何だ! 馬鹿野郎! 乃公《おれ》を見ろ! という心持サ」と上村もまた真面目で註解《ちゅうかい》を加えた。
「それから道行《みちゆき》は抜にして、ともかく無事に北海道は札幌へ着いた、馬鈴薯の本場へ着いた。そして苦もなく十万坪の土地が手に入った。サアこれからだ、所謂《いわゆ》る額に汗するのはこれからだというんで直《ただち》に着手したねエ。尤《もっと》も僕と最初から理想を一にしている友人、今は矢張《やっぱり》僕と同じ会社へ出ているがね、それと二人で開墾事業に取掛ったのだ、そら、竹内君知っておるだろう梶原《かじわら》信太郎のことサ……」
「ウン梶原君が!? あれが矢張《やっぱり》馬鈴薯だったのか、今じゃア豚のように肥《ふと》ってるじゃアないか」と竹内も驚いたようである。
「そうサ、今じゃア鬼のような顔《つら》
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