を撫《なで》てみた。
「イヤ僕こそ甚《はなは》だお恥しい話だがこれで矢張り作《やっ》たものだ、そして何かの雑誌に二ツ三ツ載せたことがあるんだ! ハッハッハッハッハッ」
「ハッハッハッハッハッ」と一同が噴飯《ふきだ》して了った。
「そうすると諸君は皆詩人の古手なんだね、ハッハッハッハッハッ奇談々々!」と綿貫が叫んだ。
「そうか、諸君も作《やっ》たのか、驚ろいた、その昔は皆《みん》な馬鈴薯党なんだね」と上村は大《おおい》に面目を施こしたという顔色《かおつき》。
「お話の先を願いたいものです」と岡本は上村を促がした。
「そうだ、先をやり給え!」と近藤は殆《ほとん》ど命令するように言った。
「宜《よろ》しい! それから僕は卒業するや一年ばかり東京でマゴマゴしていたが、断然と北海道へ行ったその時の心持といったら無いね、何だかこう馬鹿野郎! というような心持がしてねエ、上野の停車場《ステーション》で汽車へ乗って、ピューッと汽笛が鳴って汽車が動きだすと僕は窓から頭を出して東京の方へ向いて唾《つばき》を吐きかけたもんだ。そして何とも言えない嬉《うれ》しさがこみ上げて来て人知れずハンケチで涙を拭《ふ》い
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