せて、
「でも文公は長くないよ。」
 親父は急に箸《はし》を立てて、にらみつけて、
「だから、なお助けるのだ。」
 弁公はまたもすなおにうなずいた。出がけに文公を揺り起こして、
「オイちょっと起きねえ、これから、おいらは仕事に出るが、兄きは一日休むがいい。飯もたいてあるからナア、イイカ留守を頼んだよ。」
 文公は不意に起こされたので、驚いて起き上がりかけたのを弁公が止めたので、また寝て、その言うことを聞いてただうなずいた。
 あまり当てにならない留守番だから、雨戸を引きよせて親子は出て行った。文公は留守居と言われたのですぐ起きていたいと思ったが、ころがっているのがつまり楽なので、十時ごろまで目だけさめて起き上がろうともしなかったが、腹がへったので、苦しいながら起き直って、飯を食ってまたごろり[#「ごろり」に傍点]として、夢うつつで正午近くなるとまた腹がへる。それでまた食ってごろついた。
 弁公親子はある親分について市の埋め立て工事の土方をかせいでいたのである。弁公は堀《ほり》を埋める組、親父《おやじ》は下水用の土管を埋めるための深いみぞを掘る組。それでこの日は親父はみぞを掘っていると、
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