窮死
国木田独歩

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)最寄《もより》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)絶望的|無我《ぶが》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#アステリズム、1−12−94]
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 九段坂の最寄《もより》にけち[#「けち」に傍点]なめし[#「めし」に傍点]屋がある。春の末の夕暮れに一人《ひとり》の男が大儀そうに敷居をまたげた。すでに三人の客がある。まだランプをつけないので薄暗い土間に居並ぶ人影もおぼろである。
 先客の三人も今来た一人も、みな土方か立ちんぼう[#「ちんぼう」に傍点]ぐらいのごく下等な労働者である。よほど都合のいい日でないと白馬《どぶろく》もろくろくは飲めない仲間らしい。けれどもせんの三人は、いくらかよかったと見えて、思い思いに飲《や》っていた。
「文公《ぶんこう》、そうだ君の名は文さんとか言ったね。からだはどうだね。」と角《かど》ばった顔の性質《ひと》のよさそうな四十を越した男がすみから声をかけ
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