は戸板に乗せられて、親方と仲間の土方二人と、気抜けのしたような弁公とに送られて家《うち》に帰った。それが五時五分である。文公はこの騒ぎにびっくりして、すみのほうへ小さくなってしまった。まもなく近所の医者が来る事は来た。診察の型だけして「もう脈がない。」と言ったきり、そこそこに行ってしまった。
「弁公しっかりしな、おれがきっとかたきを取ってやるから。」と親方は言いながら、財布《さいふ》から五十銭銀貨を三四枚取り出して「これで今夜は酒でも飲んで通夜《つや》をするのだ、あすは早くからおれも来て始末をしてやる。」
親方の行ったあとで今まで外に立っていた仲間の二人はともかく内へはいった。けれどもすわる所がない。この時弁公はいきなり文公に、
「親父は車夫《くるまひき》の野郎とけんかをして殺されたのだ。これをやるから木賃《きちん》へ泊まってくれ。今夜は仲間と通夜《つや》をするのだから。」と、もらった銀貨一枚を出した。文公はそれを受け取って、
「それじゃア親父さんの顔を一度見せてくれ。」
「見ろ。」と言って、弁公はかぶせてあったものをとったが、この時はもう薄暗いので、はっきりしない。それでも文公はじ
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