っと見た。

       ※[#アステリズム、1−12−94]

 飯田町の狭い路地から貧しい葬儀《とむらい》が出た日の翌日の朝の事である。新宿|赤羽《あかばね》間の鉄道線路に一人の轢死者《れきししゃ》が見つかった。
 轢死者は線路のそばに置かれたまま薦《こも》がかけてあるが、頭の一部と足の先だけは出ていた。手が一本ないようである。頭は血にまみれていた。六人の人がこのまわりをウロウロしている。高い土手の上に子守《こもり》の小娘が二人と職人体《しょくにんてい》の男が一人、無言で見物しているばかり、あたりには人影がない。前夜の雨がカラリ[#「カラリ」に傍点]とあがって、若草若葉の野は光り輝いている。
 六人の一人は巡査、一人は医者、三人は人夫、そして中折れ帽をかぶって二子《ふたこ》の羽織を着た男は村役場の者らしく、線路に沿うて二三間の所を行きつもどりつしている。始終談笑しているのが巡査と人夫で、医者はこめかみのへんを両手で押えてしゃがんでいる。けだし棺おけの来るのを皆が待っているのである。
「二時の貨物車でひかれたのでしょう。」と人夫の一人が言った。
「その時はまだ降っていたかね?」と巡
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