って学校へ行った。この以後自分と志村は全く仲が善《よ》くなり、自分は心から志村の天才に服し、志村もまた元来が温順《おとな》しい少年であるから、自分をまたなき朋友《ほうゆう》として親しんでくれた。二人で画板を携え野山を写生して歩いたことも幾度か知れない。
間もなく自分も志村も中学校に入ることとなり、故郷の村落を離れて、県の中央なる某町に寄留することとなった。中学に入っても二人は画を書くことを何よりの楽《たのしみ》にして、以前と同じく相伴うて写生に出掛けていた。
この某町から我村落まで七里、もし車道をゆけば十三里の大迂廻《おおまわり》になるので我々は中学校の寄宿舎から村落に帰る時、決して車に乗らず、夏と冬の定期休業ごとに必ず、この七里の途《みち》を草鞋《わらじ》がけで歩いたものである。
七里の途はただ山ばかり、坂あり、谷あり、渓流《けいりゅう》あり、淵《ふち》あり、滝あり、村落あり、児童あり、林あり、森あり、寄宿舎の門を朝早く出て日の暮に家《うち》に着くまでの間、自分はこれらの形、色、光、趣きを如何《どう》いう風に画いたら、自分の心を夢のように鎖《と》ざしている謎《なぞ》を解くことが
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