が止まらない。口惜《くやし》いやら情けないやら、前後夢中で川の岸まで走って、川原《かわら》の草の中に打倒《ぶったお》れてしまった。
 足をばたばたやって大声を上げて泣いて、それで飽き足らず起上って其処《そこ》らの石を拾い、四方八方に投げ付けていた。
 こう暴《あば》れているうちにも自分は、彼奴《きゃつ》何時《いつ》の間《ま》にチョーク画を習ったろう、何人《だれ》が彼奴に教えたろうとそればかり思い続けた。
 泣いたのと暴れたので幾干《いくら》か胸がすくと共に、次第に疲れて来たので、いつか其処に臥《ね》てしまい、自分は蒼々《そうそう》たる大空を見上げていると、川瀬の音が淙々《そうそう》として聞える。若草を薙《な》いで来る風が、得ならぬ春の香《か》を送って面《かお》を掠《かす》める。佳《い》い心持になって、自分は暫時《しばら》くじっとしていたが、突然、そうだ自分もチョークで画いて見よう、そうだという一念に打たれたので、そのまま飛び起き急いで宅《うち》に帰えり、父の許《ゆるし》を得て、直ぐチョークを買い整え画板《がばん》を提《ひっさ》げ直ぐまた外に飛び出した。
 この時まで自分はチョークを持っ
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