時《とき》が經《た》ち、驚《おど》ろいて二人《ふたり》とも、次《つぎ》の一|里《り》を駈足《かけあし》で飛《と》んだこともあつた。
爾來《じらい》數年《すねん》、志村《しむら》は故《ゆゑ》ありて中學校《ちゆうがくかう》を退《しりぞ》いて村落《そんらく》に歸《かへ》り、自分《じぶん》は國《くに》を去《さ》つて東京《とうきやう》に遊學《いうがく》することゝなり、いつしか二人《ふたり》の間《あひだ》には音信《おんしん》もなくなつて、忽《たちま》ち又四五年[#ルビ抜けはママ]|經《た》つてしまつた。東京《とうきやう》に出《で》てから、自分《じぶん》は畫《ゑ》を思《おも》ひつゝも畫《ゑ》を自《みづか》ら書《か》かなくなり、たゞ都會《とくわい》の大家《たいか》の名作《めいさく》を見《み》て、僅《わづか》に自分《じぶん》の畫心《ゑごころ》を滿足《まんぞく》さして居《ゐ》たのである。
處《ところ》が自分《じぶん》の二十の時《とき》であつた、久《ひさ》しぶりで故郷《こきやう》の村落《そんらく》に歸《かへ》つた。宅《たく》の物置《ものおき》に曾《かつ》て自分《じぶん》が持《もち》あるいた畫板《ゑばん》
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