ゞ山《やま》ばかり、坂《さか》あり、谷《たに》あり、溪流《けいりう》あり、淵《ふち》あり、瀧《たき》あり、村落《そんらく》あり、兒童《じどう》あり、林《はやし》あり、森《もり》あり、寄宿舍《きしゆくしや》の門《もん》を朝早《あさはや》く出《で》て日《ひ》の暮《くれ》に家《うち》に着《つ》くまでの間《あひだ》、自分《じぶん》は此等《これら》の形《かたち》、色《いろ》、光《ひかり》、趣《おもむ》きを如何《どう》いふ風《ふう》に畫《か》いたら、自分《じぶん》の心《こゝろ》を夢《ゆめ》のやうに鎖《と》ざして居《ゐ》る謎《なぞ》を解《と》くことが出來《でき》るかと、それのみに心《こゝろ》を奪《と》られて歩《ある》いた。志村《しむら》も同《おな》じ心《こゝろ》、後《あと》になり先《さき》になり、二人《ふたり》で歩《ある》いて居《ゐ》ると、時々《とき/″\》は路傍《ろばう》に腰《こし》を下《お》ろして鉛筆《えんぴつ》の寫生《しやせい》を試《こゝろ》み、彼《かれ》が起《た》たずば我《われ》も起《た》たず、我《われ》筆《ふで》をやめずんば彼《かれ》も止《や》めないと云《い》ふ風《ふう》で、思《おも》はず
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