が有《あ》つたの[#(を脱カ)の注記]見《み》つけ、同時《どうじ》に志村《しむら》のことを思《おも》ひだしたので、早速《さつそく》人《ひと》に聞《き》いて見《み》ると、驚《おどろ》くまいことか、彼《かれ》は十七の歳《とし》病死《びやうし》したとのことである。
 自分《じぶん》は久《ひさ》しぶりで畫板《ゑばん》と鉛筆《えんぴつ》を提《ひつさ》げて家《いへ》を出《で》た。故郷《こきやう》の風景《ふうけい》は舊《もと》の通《とほ》りである、然《しか》し自分《じぶん》は最早《もはや》以前《いぜん》の少年《せうねん》ではない、自分《じぶん》はたゞ幾歳《いくつ》かの年《とし》を増《ま》したばかりでなく、幸《かう》か不幸《ふかう》か、人生《じんせい》の問題《もんだい》になやまされ、生死《せいし》の問題《もんだい》に深入《ふかい》りし、等《ひと》しく自然《しぜん》に對《たい》しても以前《いぜん》の心《こゝろ》には全《まつた》く趣《おもむき》を變《か》へて居《ゐ》たのである。言《い》ひ難《がた》き暗愁《あんしう》は暫時《しばらく》も自分《じぶん》を安《やす》めない。
 時《とき》は夏《なつ》の最中《もな
前へ 次へ
全23ページ中21ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
国木田 独歩 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング