もなかったので僕に続いて部屋に入ったのです。僕は母の前に座るや、
『貴女《あなた》は私を離婚すると里子に言ったそうですが、其《その》理由《わけ》を聞きましょう。離婚するなら仕ても私は平気です。或《あるい》は寧《むし》ろ私の望む処《ところ》で御座います。けれども理由《わけ》を被仰《おっしゃ》い、是非|其《そ》の理由を聞きましょう。』と酔《よい》に任《まか》せて詰寄《つめよ》りました。すると母は僕の剣幕の余り鋭いので喫驚《びっくり》して僕の顔を見て居《い》るばかり、一言も発しません。
『サア理由《わけ》を聞きましょう。怨霊《おんりょう》が私に乗移って居るから気味が悪いというのでしょう。それは気味が悪いでしょうよ。私は怨霊の児《こ》ですもの。』と言い放《はな》ちました、見る/\母の顔色は変り、物をも言わず部屋《へや》の外へ駈《か》け出て了《しま》いました。
 僕は其まゝ母の居間に寝て了ったのです。眼《め》が覚《さ》めるや酒の酔も醒《さ》め、頭の上には里子が心配そうに僕の顔を見て坐《すわっ》て居ました。母は直《す》ぐ鎌倉に引返したのでした。
 其《その》後《ご》僕と母とは会わないのです。僕は母
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