話すと母は大変|気嫌《きげん》を悪くしますから、成るべく知らん顔して居たほうが可《い》いんですよ。御覧なさい全然《まるで》狂気《きちがい》でしょう。』と別に気にもかけぬ様なので、僕も強《しい》ては問いもしなかったのです。
けれども其《その》後《ご》一月もして或日《あるひ》、僕は事務所から帰り、夜食を終て雑談して居《い》ると、養母は突然、
『怨霊《おんりょう》というものは何年|経《たっ》ても消えないものだろうか。』と問いました。すると里子は平気で、
『怨霊なんて有るもんじゃアないわ。』と一言で打消そうとすると、母は向《むき》になって、
『生意気を言いなさんな。お前見たことはあるまい。だからそんなことを言うのだ。』
『そんなら母上《おっかさん》は見て?』
『見ましたとも。』
『オヤそう、如何《どん》な顔をして居て? 私も見たいものだ。』と里子は何処《どこ》までも冷かしてかゝった。すると母は凄《すご》いほど顔色を変えて、
『お前|怨霊《おんりょう》が見たいの、怨霊が見たいの。真実《ほんと》に生意気なこというよ此《この》人《ひと》は!』と言い放ち、つッと起《たっ》て自分の部屋に引込《ひっこ》
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