、四十位にしか見えず、小柄の女で美人の相を供《そな》え、なか/\立派な婦人です。そして情の烈《はげ》しい正直な人柄といえば、智慧《ちえ》の方はやゝ薄いということは直《す》ぐ解《わか》るでしょう。快活で能《よ》く笑い能《よ》く語りますが、如何《どう》かすると恐しい程沈欝な顔をして、半日|何人《なんびと》とも口を交《まじ》えないことがあります。僕は養子とならぬ以前から此《この》人柄に気をつけて居《い》ましたが、里子と結婚して高橋の家《うち》に寝起することとなりて間もなく、妙なことを発見したのです。
それは夜の九時頃になると、養母は其《その》居間に籠《こも》って了《しま》い、不動明王を一心不乱に拝むことで、口に何ごとか念じつゝ床の間にかけた火炎の像の前に礼拝して十時となり十一時となり、時には夜半過《よなかすぎ》に及ぶのです、居間の中《うち》、沈欝《ふさ》いで居た晩は殊《こと》にこれが激しいようでした。
僕も始めは黙って居ましたが、余り妙なので或日《あるひ》このことを里子に訊《たず》ねると、里子は手を振って声を潜《ひそ》め、『黙って居らっしゃいよ。あれは二年前から初めたので、あのことを母に
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