葉に従い、一年間更に勉強して、さて弁護士の試験を受けました処《ところ》、意外の上首尾、養父も大よろこびで早速其友なる井上博士の法律事務所に周旋《しゅうせん》して呉《く》れました。
兎《と》も角《かく》も一人前《いちにんまえ》の弁護士となって日々|京橋区《きょうばしく》なる事務所に通うて居《い》ましたが、若《も》し彼《あ》のまゝで今日になったら、養父も其目的通りに僕を始末し、僕も平穏な月日を送って益々《ますます》前途の幸福を楽《たのし》んで居たでしょう。
けれども、僕は如何《どう》しても悪運の児《こ》であったのです。殆《ほとん》ど何人《なんびと》も想像することの出来ない陥穽《おとしあな》が僕の前に出来て居て、悪運の鬼は惨刻《ざんこく》にも僕を突き落しました。
五
井上博士は横浜にも一ヶ所事務所を持《もっ》て居ましたが、僕は二十五の春、此《この》事務所に詰めることとなり、名は井上の部下であっても其《その》実は僕が独立でやるのと同じことでした。年齢《とし》の割合には早い立身と云《い》っても可《よ》いだろうと思います。
処《ところ》が横浜に高橋という雑貨商があって、随分
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