ですか、そうですか、解《わか》りました。それでは貴様《あなた》は宇宙に神秘なしと言うお考《かんがえ》なのです、要之《つまり》、貴様には此《この》宇宙に寄する此人生の意義が、極く平易|明亮《めいりょう》なので、貴様の頭は二々《ににん》が四《し》で、一切《いっせつ》が間に合うのです。貴様の宇宙は立体でなく平面です。無窮無限という事実も貴様には何等《なんら》、感興と畏懼《いく》と沈思とを喚《よ》び起す当面の大いなる事実ではなく、数の連続を以《もっ》てインフィニテー(無限)を式で示そうとする数学者のお仲間でしょう。」と言って苦しそうな嘆息を洩《もら》し、冷《ひやや》かな、嘲《あざけ》るような語気で、
「けれども、実は其方が幸福なのです。僕の言葉で言えば貴様は運命に祝福されて居る方、貴様の言葉で言えば僕は不幸な結果を身に受けて居る男です。」
「それでは此《これ》で失礼します。」と自分は起上《たちあが》った、すると彼は狼狽《あわて》て自分を引止め、「ま、ま、貴様怒ったのですか。若《も》し僕の言った事がお気に触ったら御勘弁を願います。つい其《そ》の自分で勝手に苦《くるし》んで勝手に色々なことを、馬鹿
前へ
次へ
全48ページ中11ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
国木田 独歩 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング