な訳にも立たん事を考《かん》がえて居《お》るもんですから、つい見境もなく饒舌《しゃべる》のです。否《いいえ》、誰《だれ》にも斯《そ》んなことを言った事はないのです。けれども何んだか貴様《あなた》には言って見とう感じましたから遠慮もなく勝手な熱を吹いたので、貴様には笑われるかも知れませんが。僕にはやはり怪《あや》しの運命が僕と貴様を引着《ひきつけ》たように感ぜられるのです。不幸《ふしあわ》せな男と思って、もすこしお話し下さいませんか、もすこし……」
「けれども別にお話しするようなことも僕には有りませんが……」
「そう言わないで何卒《どうか》もすこし此処《ここ》に居《い》て下さいな、もすこし……。噫《ああ》! 如何《どう》して斯《こ》う僕は無理ばかり言うのでしょう! 酔《よっ》たのでしょうか。運命です、運命です、可《よ》う御座います、貴様にお話がないなら僕が話します。僕が話すから聞いて下さい、せめて聴《きい》て下さい、僕の不幸《ふしあわせ》な運命を!」
此《この》苦痛の叫《さけび》を聞いて何人《なんびと》か心を動かさざらん。自分は其《その》儘《まま》止《とどま》って、
「聞きましょうとも
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