しく往来はしないのです。けれども、会えばいつも以前のままの学友気質で、無遠慮な口をきき合うのです。この日も鷹見は、帰路にぜひ寄れと勧めますから、上田とともに三人連れ立って行って、夫人のお手料理としては少し上等すぎる馳走《ちそう》になって、酒も飲んで「あの時分」が始まりましたが、鷹見はもとの快活な調子で、
「時に樋口《ひぐち》という男はどうしたろう」と話が鸚鵡《おうむ》の一件になりました。
「どうなるものかね、いなかにくすぼっているか、それとも死んだかも知れない、長生きをしそうもない男であった。」と法律の上田は、やはりもとのごとくきびしいことを言います。
「かあいそうなことを言う、しかし実際あの男は、どことなく影が薄いような人であったね、窪田《くぼた》君。」
 と鷹見の言葉のごとく、私も同意せざるを得ないのです。口数をあまりきかない、顔色の生白《なまじろ》い、額の狭い小づくりな、年は二十一か二の青年《わかもの》を思い出しますと、どうもその身の周囲に生き生きした色がありません、灰色の霧が包んでいるように思われます。
「けれども艶福《えんぷく》の点において、われわれは樋口に遠く及ばなかった」
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