問する身にてありながら、私はまだ、ほんのこどもでしたから、こういういたずらも四郎と同じ心のおもしろさを持っていたのです。
 十幾本の鉤《はり》を凧糸《たこいと》につけて、その根を一本にまとめて、これを栗《くり》の木の幹に結び、これでよしと、四郎と二人が思わず星影寒き大空の一方を望んだ時の心持ちはいつまでも忘れる事ができません。
 もちろん雁のつれるわけがないので、その後二晩ばかりやってみましたが、人々に笑われるばかり、四郎も私も断念しました。悲しい事にはこの四郎はその後まもなく脊髄病《せきずいびょう》にかかって、不具《かたわ》同様の命を二三年保っていたそうですが、死にました。そして私は、その墓がどこにあるかも今では知りません。あきらめられそうでいてて、さて思い起こすごとにあきらめ得ない哀別のこころに沈むのはこの類の事です、そして私は「縁が薄い」という言葉の悲哀を、つくづく身に感じます。
 ツイ近ごろのことです、私は校友会の席で、久しぶりで鷹見や上田に会いました。もっともこの二人は、それぞれ東京で職を持って相応に身を立てていますから、年に二度三度会いますが、私とは方面が違うので、あまり親
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