っけに取られていますと、駆けこんで来たのが四郎という十五になるこの家《うち》の子です。
「鸚鵡《おうむ》をくださいって」と、かごを取って去ってしまいました。この四郎さんは私と仲よしで、近いうちに裏の田んぼで雁《がん》をつる約束がしてあったのです、ところがその晩、おッ母《か》アと樋口は某坂《なにざか》の町に買い物があるとて出てゆき、政法の二人は校堂でやる生徒仲間の演説会にゆき、木村は祈祷会《きとうかい》にゆき、家に残ったのは、下女代わりに来ている親類の娘と、四郎と私だけで、すこぶるさびしくなりましたから、雁つりの実行に取りかかりました。
 かねて四郎と二人で用意しておいた――すなわち田溝《たみぞ》で捕えておいたどじょうを鉤《はり》につけて、家を西へ出るとすぐある田のここかしこにまきました。田はその昔、ある大名の下屋敷《しもやしき》の池であったのを埋めたのでしょう、まわりは築山《つきやま》らしいのがいくつか凸起《とっき》しているので、雁にはよき隠れ場であるので、そのころ毎晩のように一群れの雁がおりたものです。
 恋しき父母兄弟に離れ、はるばると都に来て、燃ゆるがごとき功名の心にむちうち、学
前へ 次へ
全16ページ中5ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
国木田 独歩 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング