あの時分
国木田独歩
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)御代《みよ》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)ある日|樋口《ひぐち》と
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)ひとりで[#「ひとりで」に傍点]
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さて、明治の御代《みよ》もいや栄えて、あの時分はおもしろかったなどと、学校時代の事を語り合う事のできる紳士がたくさんできました。
落ち合うごとに、いろいろの話が出ます。何度となく繰り返されます。繰り返しても繰り返しても飽くを知らぬのは、またこの懐旧談で、浮き世の波にもまれて、眉目《びもく》のどこかにか苦闘のあとを残すかたがたも、「あの時分」の話になると、われ知らず、青春の血潮が今ひとたびそのほおにのぼり、目もかがやき、声までがつやをもち、やさしや、涙さえ催されます。
私が来た十九の時でした、城北大学といえば今では天下を三分してその一を保つとでも言いそうな勢いで、校舎も立派になり、その周囲の田も畑もいつしか町にまでなってしまいましたがいわゆる、「あの時分」です、それこそ今のおかたには想像にも及ばぬことで、
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