じゃんと就業の鐘が鳴る、それが田や林や、畑を越えて響く、それ鐘がと素人下宿《しろとげしゅく》を上ぞうりのまま飛び出す、田んぼの小道で肥えをかついだ百姓に道を譲ってもらうなどいうありさまでした。
ある日|樋口《ひぐち》という同宿の青年《ひと》が、どこからか鸚鵡《おうむ》を一羽、美しいかごに入れたまま持って帰りました。
この青年《ひと》は、なぜかそのころ学校を休んで、何とはなしに日を送っていましたが、私には別に不思議にも見えませんでした。
午後三時ごろ、学校から帰ると、私の部屋《へや》に三人、友だちが集まっています、その一人は同室に机を並べている木村という無口な九州の青年《ひと》、他の二人は同じこの家に下宿している青年《ひと》で、政治科および法律科にいる血気の連中でした。私を見るや、政治科の鷹見《たかみ》が、
「窪田《くぼた》君、窪田君、珍談があるよ」と声を低く、「きのうから出ていない樋口《ひぐち》が、どこからか鸚鵡《おうむ》を持って来たが、君まだ見まい、早く見て来たまえ」と言いますから、私はすぐ樋口の部屋に行きました。裏の畑に向いた六畳の間に、樋口とこの家《や》の主人《あるじ》の後
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