二月《ふたつき》ばかりすると故郷《くに》へ帰らなければならぬ事になり、帰りました。
そのわけはなんであろうか知りませんが、たぶん学資のことだろうと私は覚えています。そして私には木村が、たといあの時、故郷《くに》に帰らないでも、早晩、どこにか隠れてしまって、都会の人として人中に顔を出す人でないと思われます。木村が好んで出さないのでもない、ただ彼自身の成り行きが、そうなるように私には思われます。樋口《ひぐち》も同じ事で、木村もついに「あの時分」の人となってしまいました。
先夜鷹見の宅《うち》で、樋口の事を話した時、鷹見が突然、
「樋口は何を勉強していたのかね」と二人に問いました。記憶のいい上田も小首を傾けて、
「そうサ、何を読んでいたかしらん、まさかまるきり遊んでもいなかったろうが」と考えていましたが、
「机に向いていた事はよく見たが、何を専門にやっていたか、どうも思いつかれぬ、窪田君、覚えているかい」と問われて、私も樋口とは半年以上も同宿して懇意にしていたにかかわらず、さて思い返してみて樋口が何をまじめに勉強していたか、ついに思い出すことができませんでした。
そこで木村のことを思う
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