につけて、やはり同じ事であります。木村は常に机に向いていました、そして聖書《バイブル》を読んでいたことだけは今でも思い出しますが、そのほかのことは記憶にないのです。
そう思うと樋口も木村もどこか似ている性質があるようにも思われますが、それは性質が似ているのか、同じ似たそのころの青年の気風に染んでいたのか、しかと私には判断がつきませんけれども、この二人はとにかくある類似した色を持っていることは確かです。
そう言いますと、あの時分は私も朝早くから起きて寝るまで、学校の課業のほかに、やたらむしょうに読書したものです。欧州の政治史も読めば、スペンサーも読む、哲学書も読む、伝記も読む、一時間三十ページの割合で、日に十時間、三百ページ読んでまだ読書の速力がおそいと思ったことすらありました。そしてただいろんな事を止め度もなく考えて、思いにふけったものです。
そうすると、私もただ乱読したというだけで、樋口や木村と同じように夢の世界の人であったかも知れません。そうです、私ばかりではありません。あの時分は、だれもみんなやたらに乱読したものです。[#地から2字上げ](完)
底本:「号外・少年の悲
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