て、黙って後ろのほうの席に小さくなっていました。
牧師が賛美歌の番号を知らすと、堂のすみから、ものものしい重い、低い調子でオルガンの一くさり、それを合図に一同が立つ。そして男子の太い声と婦人の清く澄んだ声と相和して、肉声の一高一低が巧妙な楽器に導かれるのです、そして「たえなるめぐみ」とか「まことのちから」とか「愛の泉」とかいう言葉をもって織り出された幾節かの歌を聞きながら立っていますと、総身に、ある戦慄《せんりつ》を覚えました。
それから牧師の祈りと、熱心な説教、そしてすべてが終わって、堂の内の人々|一斉《いっせい》の黙祷《もくとう》、この時のしばしの間のシンとした光景――私はまるで別の世界を見せられた気がしたのであります。
帰りは風雪《ふぶき》になっていました。二人は毛布《けっと》の中で抱き合わんばかりにして、サクサクと積もる雪を踏みながら、私はほとんど夢ごこちになって寒さも忘れ、木村とはろくろく口もきかずに帰りました。帰ってどうしたか、聖書《バイブル》でも読んだか、賛美歌でも歌ったか、みな忘れてしまいました。ただ以上の事だけがはっきりと頭に残っているのです。
木村はその後|
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