ありて身も心も清《きよ》く覚《おぼ》えたり、此《こ》の帰るさ、またもとの俗骨《ぞくこつ》にかへり、我《われ》も詩を作る事《こと》を知りたるならば、拙《へた》ながらも和韻《わゐん》と出かけて、先生を驚《おどろ》かしたらんものをと負《まけ》じ魂《だましひ》、人|羨《うらや》み、出来《でき》ぬ事《こと》をコヂつけたがる持前《もちまへ》の道楽《だうらく》発《おこ》りて、其夜《そのよ》は詩集《ししふ》など出《いだ》して読みしは、我《われ》ながら止所《とめどころ》のなき移気《うつりぎ》や、夫《それ》も其夜《そのよ》の夢だけにて、翌朝《よくあさ》はまた他事《ほかのこと》に心移《こゝろうつ》りて、忘《わす》れて年月《としつき》を経《へ》たりしが、梅《うめ》の花の咲《さ》くを見ては毎年《まいとし》、此日《このひ》の会《くわい》の雅《みやび》なりしを思《おも》ひ出《だ》して、詩を作らう、詩を作らう、和韻《わゐん》に人を驚《おどろ》かしたいものと悶《もだ》へしが、一心《いつしん》凝《こ》つては不思議《ふしぎ》の感応《かんおう》もあるものにて、近日《きんじつ》突然《とつぜん》として左《さ》の一詩《し》を得《え
前へ 次へ
全17ページ中8ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
饗庭 篁村 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング