然るべき軍職に就いて落着して居る。
この匪徒の招安に關して、古來種々の笑話が傳へられて居る。中にも南宋の頃に福建の海賊の頭目の鄭廣といふ者が歸順して、相當の官吏に取り立てられたが、その同僚は皆彼の泥棒出身であるのを輕蔑して、役所の會食の折にも彼一人だけを排斥するといふ風であつた。鄭廣は聖人面する彼の新同僚が、支那官吏の常習として、何れも中飽――袖下《そでのした》――を貪つて居ることを察知して、一日極めて皮肉な詩一首を作つて彼等の廻覽に供した。その詩は、
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鄭廣有[#レ]詩上[#二]衆官[#一]。文武看來總一般。衆官做[#レ]官却做[#レ]賊。鄭廣做[#レ]賊却做[#レ]官。
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といふので、その意味は諸君は官吏となつて賊を行ひ、僕は賊を行うて官吏となつたので、唯手段に前後の差あるのみで、畢竟同志と稱すべきものなるに、何が故に僕一人を排斥するかといふに在つたから、傷持つ一同は苦笑して、爾後その態度を改めたといふ。
鄭廣が皮肉つた支那官吏の收賄聚斂は天下に著聞して居る。態※[#二の字点、1−2−22]事新らしく吹聽するに足らぬ。「爾俸爾禄。民
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