B水銀和煎。并[#レ]骨銷盡。後又欲[#レ]食[#二]其婦[#一]。婦知[#レ]之。踰[#レ]墻而遯。以告[#二]縣令[#一]。令詰[#レ]之。具得[#二]其情[#一]。申[#レ]州録[#レ]事奏。奉[#レ]勅杖一百而死。
[#ここで字下げ終わり]
といふ。同書に同時代に施州刺史であつた獨孤莊といふ者が、病中に人肉を好み、部下の奴婢の死せる者の肉を求めて食したことを傳へて居る。薛震といひ獨孤莊といひ、泰平無事の日に、相當の官職を帶べる身分で、かかる嗜好を有すとは、誠に不思議と申さねばならぬ。唐の徳宗憲宗時代の重臣に張茂昭がある。本は奚種族であるが、祖父の時代から中國に歸化して居り、彼自身は節度使から中書令に進み、死後太師まで贈られた。唐の盧言の『盧氏雜説』(『賓退録』卷七所引)に、この張茂昭に就いて次の如く傳へて居る。
[#ここから2字下げ]
張茂昭爲[#二]節鎭[#一]。頻喫[#二]人肉[#一]。及[#下]除[#二]統軍[#一]到[#上レ]京。班中有[#レ]人問曰。尚書在[#レ]鎭。好[#二]人肉[#一]虚實。笑曰。人肉腥而※[#「月+繰のつくり」、第3水準1−90−53]。爭《イカデカ》堪[#レ]喫。
[#ここで字下げ終わり]
所謂問ふに落ちずして、語るに落つるものであるまいか。
 嗜好品として人肉を食した者の代表として、五代の高※[#「さんずい+豊」、第3水準1−87−20]を逸することが出來ぬ。元末の陶宗儀の『輟耕録』卷九に、古來食人の事實を列記せる中に、
[#ここから2字下げ]
三國志云。呉將高※[#「さんずい+豊」、第3水準1−87−20]。好使[#レ]酒。嗜[#二]殺人[#一]而飮[#二]其血[#一]。日暮必於[#二]宅前後[#一]。掠[#二]行人[#一]而食[#レ]之。
[#ここで字下げ終わり]
とある。併し『三國志』には一切かかる記事が載せてない。北宋の路振の『九國志』(『粤雅堂叢書』本)卷二に、高※[#「さんずい+豊」、第3水準1−87−20]を傳して、
[#ここから2字下げ]
{高}※[#「さんずい+豊」、第3水準1−87−20]嗜[#レ]酒好[#レ]侠。殺人而飮[#二]其血[#一]。日暮必於[#二]宅前後[#一]。掠[#二]行人[#一]而食[#レ]之。
[#ここで字下げ終わり]
とある。疎忽な陶宗儀は、『九國志』を『三國志』と間違へ、嗜酒好侠の句を、好使酒嗜と書き誤つたに相違ない。支那人の著録に、往々『輟耕録』の記事をその儘に襲踏せるものを見受けるが、不注意千萬と申さねばならぬ。高※[#「さんずい+豊」、第3水準1−87−20]とほぼ時を同くして萇從簡がある。彼は後唐、後晉に歴仕して、節度使、上將軍に出世したが、好んで人肉を食した。『五代史記』、卷四十七に、
[#ここから2字下げ]
{萇}從簡好食[#二]人肉[#一]。所[#レ]至多潛捕[#二]民間小兒[#一]。以食。
[#ここで字下げ終わり]
と記してある。萇從簡の家はもと屠羊を世業としたから、顯官となつて後も、かかる野蠻な習癖を有したものと見える。好んで人肉を食した人は、唐代から五代を經て、北宋初期の人に多い。宋初の柳開は歐蘇の先驅者として、文學史上相當名の聞えた人で、已に『宋史』の文苑傳(卷四百四十)にも載せられてあるが、彼も亦この嗜好を有して居つた。南宋初期の蔡絛の『鐵圍山叢談』卷三に、「{柳}開喜生[#二]膾人肝[#一]。且多[#二]不法[#一]。謂尚仍五季亂習」と記してある。
 明初の新安王有※[#「火+喜」、第3水準1−87−63]は太祖の第五子なる周定王の子で、太祖の孫に當る皇族であるが、平常人肉を嗜食した。明の沈徳符の『野獲編』卷二十八に、この王に就いて、
[#ここから2字下げ]
性狼戻。嗜生[#二]食人肝及腦膽[#一]。常以[#二]薄暮[#一]。伺[#レ]有[#二]過[#レ]門者[#一]。輙誘入殺而食[#レ]之。其府第前。日未[#レ]※[#「日+甫」、第3水準1−85−29]。即斷[#二]行跡[#一]。……※[#「けものへん+契」、189−9]※[#「けものへん+兪」、189−9]梟※[#「けものへん+竟」、189−9]。乃出[#二]帝系[#一]。亦宗藩異事也。
[#ここで字下げ終わり]
と述べて居る。金枝玉葉の身で、かかる嗜好を有するとは、眞に咄々《とつとつ》怪事でないか。
 Marco Polo(Yule and Cordier; Vol. II, p. 225)に據ると、福建地方の或る住民は、好んで病死にあらざる人間の肉を食ふ。かくて彼等は殺害された人間の肉を搜索しまはる。彼等は人肉の味を素敵(Excellent)として賞美するといふ。既に Yule の注意せし如く、この住民とは福建の山間に棲息する原住種族を、指すものであらう。
前へ 次へ
全27ページ中18ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
桑原 隲蔵 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング