L[#二]訴者[#一]。斬[#二]于洛陽市[#一]。
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但 〔Abu^ Zayd〕 が支那人の法律は人肉を食することを認可すといへる一節は、多少の説明を要する。既に孟子も「獸相食。且人惡[#レ]之」(梁惠王上)と申して居る位で、支那人とて人肉の相食むのを尋常の出來事として看過する筈がない。現に唐の張巡が忠義の爲とはいへ、人肉を食したことに對してすら、一部の非難があつた(『新唐書』卷百九十二、張巡傳)。支那人の法律が主義として人肉食用を公認する筈がない。されど 〔Abu^ Zayd〕 の時代、即ち唐末から五代の初期にかけて、支那國内の秩序亂れ綱紀壞ぶれ、所在の市場で人肉の公賣されたことは、疑なき事實である。『五代史記』も『資治通鑑』も、揚州の市場で公然人肉の販賣された事實を明記してある。即ち事實としては、當時の支那官憲は、人肉の食用と販賣に對して、何等の禁制を加へなかつた。此の如くして 〔Abu^ Zayd〕 傳ふる所のこの一節も、亦大體に於て事實と認めねばならぬ。
五
唐末五代以後も、支那人の Cannibalism は依然行はれた、この一千年間に於ける正史野乘を遍ねく探つたならば、Cannibalism の例證は恐らくは山にも比し得る程と思ふ。吾が輩はかかる例證を一々探討する餘暇もなく、又かかる例證を一々羅列する必要をも感ぜぬ。ただこの期間に起つた尤も酷烈なる Cannibalism の記事二三を茲に掲げて、全貌窺測の資料に供したい。
北宋末から南宋の初期にかけて、女眞人の入寇により、支那を擧げて紛擾の裡に陷つた。この際例によつて所在に人肉食用が流行した。就中南宋の莊綽の『※[#「奚+隹」、第3水準1−93−66]肋編』(『説郛』※[#「疆」のへんの「土」にかえて「一」、173−7]二十七所收)に記する所、尤も酸鼻を極めて居る。
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自[#二]靖康丙午歳(西暦一一二六)。金狄亂[#一レ]華。六七年間。山東、京西、淮南等路。荊榛千里。米斗至[#二]數十千[#一]。且不[#レ]可[#レ]得。盜賊官兵以至[#二]民居(居民?)[#一]更相食。人肉之價賤[#二]于犬豕[#一]。壯者一枚。不[#レ]過[#二]十五斤[#一]。躯暴以爲[#レ]※[#「月+昔」、第3水準1−90−47]。登州范温率[#二]忠義之人[#一]。紹興癸丑歳(西暦一一三三)。汎[#レ]海到[#二]錢塘[#一]。有[#下]至[#二]行在(杭州)[#一]猶食者[#上]。老嫂(痩?)男子婦女。更謂[#二]之饒把火[#一]。婦人少艾者。名[#二]之下羹羊[#一]。小兒呼爲[#二]和骨爛[#一]。又通目爲[#二]兩脚羊[#一]。唐止《タダ》朱粲一賊。今百[#二]倍于前數[#一]。殺戮、焚溺、飢餓、疾疫、陷墮。其死已衆。又加[#レ]之以[#二]相食[#一]。……不[#レ]意以[#二]老眼[#一]。親見[#二]此時[#一]。嗚呼痛哉。
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この兩脚羊とは兩脚を有する羊の意味で、人間を羊同樣に食用するから起つた名稱である。和骨爛とは骨と肉を併せて火食する、下羮羊は『輟耕録』卷九に引けるものは不美羹となつて居る。これは羹の料に供するより起つた名稱で、饒把火とは肉硬くして燃料を多く要するより起つた名稱かと想ふ。
元朝の末期に出た陶宗儀の『輟耕録』卷九にも、その當時の事實として、『※[#「奚+隹」、第3水準1−93−66]肋編』に劣らざる、否遙にそれ以上と認むべき悲慘な記事を傳へて居る。
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天下兵甲方殷。而淮右之軍。嗜食[#レ]人。以[#二]小兒[#一]爲[#レ]上。婦女次[#レ]之。男子又次[#レ]之。或使[#レ]坐[#二]兩缸間[#一]。外逼以[#レ]火。或於[#二]鐵架上[#一]生炙。或縛[#二]其手足[#一]。先用[#二]沸湯[#一]澆溌。却以[#二]竹帚[#一]刷[#二]去苦皮[#一]。或乘[#二]夾袋中[#一]。入[#二]巨鍋[#一]。活※[#「赭のつくり/火」、第3水準1−87−52]。或※[#「圭+りっとう」、174−5][#二]作事件[#一](?)而淹[#レ]之。或男子則止斷[#二]其雙腿[#一]。婦女則特※[#「宛+りっとう」、第4水準2−3−26][#二]其兩乳[#一]酷毒萬状。不[#レ]可[#二]具言[#一]。
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活人をその儘火炙にするとか、袋に入れ鍋で※[#「赭のつくり/火」、第3水準1−87−52]るとか、その手足を縛し熱湯をかけて皮膚を爛らし、竹帚にてその皮膚を洗刷する等、千歳の下猶ほ聞く者をして毛髮竦然たらしむるではないか。此の記事の如きは、單に支那人の食人肉の一材料のみでなく、又支那人の殘忍性を證明するべき一
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